2022
5
Mar

雑記

最初で最後のスキー体験

ダマリがデザイン会社に勤務していた頃、先輩たちがスキーの計画をしていて、それになぜか誘ってもらった。男3人、女3人。グループデートのようだが、全くそういう関係はなく、今思えば、本当に仲が良かったと思う。

ダマリ以外はスキー経験者。九州出身のダマリが、スキー未経験だと思ってか、アートディレクター(以後、AD)のSさんが
「ダマリも行こうよ。ウエアなら私のが余ってるし。お金がなかったら、Mくんが貸してあげるよ」
とSさんの隣のデスクにいたAD・Mさんが
「いいよ、旅費出しとくから、返せる時返して」
と、トントン拍子でスキー2泊3日旅行が敢行された。

向かったスキー場は新潟にあった。新幹線で、東京から群馬を抜け、新潟に向かっていくごとに外の景色が白くなっていく。
〈国境の長いトンネルを抜けると雪国であった〉
と川端康成の『雪国』をリアルに彷彿させた。

新潟に到着。地元・鹿児島でも雪は降るが、多く積もっても、せいぜい10cm。そんな世界しか知らなかったダマリにとって、深く白い雪は、おとぎ話のように感じた。しかし、実際スキーを始めると、地獄絵図に変わってしまった。

AD・Sさん、そして、AD・Mさんは、根気よくダマリに、滑り方を教えてくれた。つきっきりで、本当に申し訳なかった。スキー板を開いてハの字型をつくり、ジグザク走行の練習から始まった。どうにか期待に応えようと懸命に練習したが《恐怖心》が先走ってしまい、自分が生粋の南国人だということに気付かされた。

そして、ちょっとした事件が起こってしまった。初心者なくせに、先輩たちと高い場所に行ってしまっていたため、閉園時間になってしまったのだ。下に降りるまで、だいぶ距離がある。陽が傾き始め、早くしないと真っ暗になってしまう。

すると、レスキューの男の人がやってきて、ダマリをおんぶして下に降りることになった。先輩たちも、急いで下に滑り出した。おんぶされること自体、何十年ぶりで、尚且つ、その状態で滑るというのは、なんとも気持ちがよく、不躾だが、とても面白かった。

あの日、ダマリは胸に誓った。
「これが最初で最後のスキーだ」
と。